「ふむふむ」と「てくてく」で東海道歩きを満喫する『東海道でしょう!』

shinagawa_iriguchi

酒の席で話題に困ったら、「もしも」の話で場を盛り上げろ!

藤田香織は先輩ライターにそう言われたことがあるそうな。そして、それを素直に実践してきたそうな。

そうしたところ、ある日対談の仕事を終えて寛いでいるとき、

「ねえねえ、もしも今、お金と時間があったら何がしたい?」

と言ってみたところ、杉江松恋が

僕、学生時代に能登半島を一周して、凄く楽しかったんですよ。だから、そうだな。東海道を歩いてみたいですね。

と言ったそうな。

すると、居合わせた編集者の耳がぴくんと反応し、企画が1本まとまってしまったそうな。

toukaidou_dodeshou

それが本書、杉江松恋・藤田香織『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)だ。

文芸評論家・書評家である杉江松恋と、書評家・エッセイスト藤田香織による東海道五十三次の道中記。個性的な2人に加え、担当編集者やゲストも交えた足かけ一年半の東海道踏破と宿場めぐりが楽しめるエッセイ&ガイドだ。

本書は2013年の7月刊。ずいぶん前に購入して一度読んでいるのだが、先日の有坂蓉子『ご近所富士山の「謎」』に続き、ちょっと歴史テイストなジャンルに興味が出てきたので本書の登場となった。「歩きモノ」が好きとは以前も書いたが、歩きモノかつエッセイであれば繰り返し読む。読み返しの時期によって関心のある部分が変わってくる事や「あれ?こんなこと書いてあったかなあ」という単純な忘却(最近すごく多い)もあるので、再読や再々読でも毎回楽しく読めてしまう。

杉江、藤田の両名は書評家であるけれど、それ以外にも、杉江=体重0.1トン、藤田=日常歩行歩数400歩という、出不精かつ不健康という共通点もあり、歩くとひと言でいっても東海道踏破は二人にとってそれなりにツライ部分もあり、随所に出てくるぼやきも本書の重要なコンテンツだ。


本書は共同執筆。ふたりがそれぞれきっちり3頁ずつ交互に書いて行くスタイルになっている。ざっくり分けると杉江松恋は「東海道ふむふむ」の歴史・由緒担当。藤田香織はホンネ・実用の「てくてくある記」担当だ。

まず、杉江松恋から。

僕は本の虫なので、どこかに行きたいという気持が湧き上がると、まずそこに関する本を探す癖がある。

と言っていて、さらに、

僕は今この本を、自分と同じような「行きたいところの本を買ってしまう人」に向けて書こうと思っている。

と述べている。

実際どのくらいの本が出てくるかというと、

まずスタートの日本橋は、

nihonbashi

  1. 東野圭吾麒麟の翼講談社文庫 
  2. 獅子文六大番小学館文庫
  3. 小林信彦日本橋バビロン文春文庫
  4. 十返舎一九東海道中膝栗毛岩波文庫
  5. 東海道ネットワークの会21『決定版 東海道五十三次ガイド』講談社+α文庫

そして次の品川宿で映画2本と本4冊。

shianagawa-ezu

  1. 昭和29年の映画「ゴジラ」
  2. 川島雄三監督「幕末太陽傳」
  3. 長井好弘『噺家と歩く「江戸・東京」』アスペクト
  4. 小沢昭一『小沢昭一的東海道ちんたら旅』新潮社
  5. 吉川英治『宮本武蔵』講談社文庫
  6. 村松友視『涙橋

さらに川崎まで行くとあと4冊の追加。

kawasaki_syuku

  1. 泡坂妻夫『朱房の鷹 宝引の辰捕者帳』文春文庫
  2. 町田市立国際版画美術館監修『謎解き浮世絵叢書 歌川広重宝永堂版東海道五拾三次』二玄社
  3. 小林まこと『1・2の三四郎』講談社漫画文庫ほか
  4. 吉村昭『生麦事件』新潮文庫

映画やコミックも取り混ぜてここまでで15作品。その宿場や歴史にちなんだ様々な本が紹介されている。この調子で紹介され続けていくと、読みたい本が次々に増えていき・・・と大変なことになってしまうので注意が必要だ。もっとも相手は本を薦めるプロだから、勝負は最初から見えているのだけれど・・・。


一方、藤田香織は冒頭に挙げた軽いノリだったはずの「もしも」の話が現実になり、「せっかくだから」と参加を強いられて「悪夢すぎる!」成り行きに。

日本橋→三条大橋。距離にして実に492km。

どう頑張ってみても想像すらできないこの距離を、「歩く」なんてまたくもって考えられない。どうかしてる、イカレテル!

とご機嫌ななめでスタートする。

東海道を歩くなんて冗談だよ、と誰か言い出して、お願い!

と最初はかなり腰が引けている。

しかし歩きも回数を重ね、徐々に慣れてきて旅も後半に入れば、今までの日常からはおよそ想像しえない万歩計計測4万歩超という未知の領域に突入していく。

そこら辺のいわば「成長」的な要素は、『カミーノ!』を読み、さらに映画『サンジャックへの道』と『星の旅人たち』を見るで書いた旅人たちのように、人生を背負って歩いているわけではないので比べるのもヘンだけれど、宿場を通過していくごとに「強く」なっていく藤田香織を、われわれはいつの間にか応援していることに気付く。

そんな藤田香織だが、こちらは杉江松恋の歴史系とは違ってホンネ・実用担当として東海道を歩くためのお役立ちグッズを各頁で紹介している。

まずは「とにかく昔から歩くことが大嫌い」な自分が悩んだ基本中の基本である歩き方の参考書。

さらに

  • シューズ(ソーラーソフトサンダル)
  • レインウェア
  • ウェア(Tシャツなど)、ソックス、タオル、日焼け止め
  • ザック(大きめ+軽いもの)
  • サポーター、ウォーキングストック
  • おやつ

などなどについての試行錯誤とアドバイス。

そして東海道のガイド本。

スギエさんの文中で紹介されている本が中・上級者編だとしたら。こちらはいわば初級者編!

と言いつつも、

  1. 東海道の旅を楽しむ会『東海道五十三次が超おもしろくなる本』扶桑社文庫
  2. 石川英輔『江戸人と歩く東海道五十三次』新潮文庫
  3. 岡本永義『東海道五十三次四百年の歴史をあるく 足かけ半年 二十九日間の旅』けやき出版
  4. 中田嘉種解説『原色再現 東海道五十三次 宿場町百景』新人物往来社
  5. 鳥居志保・えのきのこ『てくてく東海道五十三次』ワニブックス

と5冊も紹介している!

「え〜、ホントに歩くの?」と文句たらたらのヒトだったはずがいつの間にか本の紹介まで?

って、それが藤田香織の本業だった。


ちなみに藤田香織はホンネ担当。歴史的に重要な意味があるモニュメントに出くわしても、関心がなければ「ふむふむ」と「ほほう」でやり過ごす。「これって、ホントに面白いか?」というスタンスはじつは私には心地よい。

杉江松恋の紹介する本が面白く読めたとしても、東海道を実際に歩いてみて出会う歴史や由緒ある事物を前に「・・・」という反応しかできない場合、今まではそんなアホな自分の落とし処が分からないでいたのだ。しかしこれからは「ふむふむ」と「ほほう」という武器がある。乱用は良くないと思うが、いざというときには使いたい。

それなりの物件に出逢って、そこに設置された解説文やエピソードを読み、背景知識を仕入れたにもかかわらず感想が「・・・」だった時は、ひとしきり感心したあとでハッキリと言おう!

「で、それが何か?」


本書には、杉江松恋 藤田香織『東海道でしょう!』|Webマガジン幻冬舎というサイトがある。旅の行程表、グルメ編、危機一髪編、など文中に掲載された道中の様子の写真などが見られるので、のぞいてみよう!