『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』峠恵子の本当の冒険とは?

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ノンフィクション

峠恵子『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』(山と渓谷社)を最初に書店で見かけたときは、まずカバー写真にドン引きだった。

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「むむ、これはいったい・・・」インパクトが欲しいのはわかるが、なにゆえこのカバーでいくのか編集スタッフが営業を説得するのは大変だったのではないか、などど余計な事を考えてしまったのだ。ななめヨコが本書の営業担当だったらゴネたかもしれない。なにせ黒バックにジャンプスーツとヘルメットにザイルとマイクですよ。著者が歌手とはいえこれはちょっとと思い、その時はそっと棚に戻した。

その後何度か書店で見かけ、手に取っては戻していたのだが、やはり気になるので購入した。やっぱこのカバーヘンだわ、と思いつつ。

読み始めて暫くしてから、何気なく奥付を見たら「本書は2004年発行の『ニューギニア水平垂直航海記』を底本とし…」と書いてある。お、やっちまったか!たしか椎名誠がタイトルのネーミングを依頼されて云々という本だったのではないか。もしそうなら読んだことがある。

既読の本を読んだことを忘れて再購入し、途中まで読んでなんかヘンだぞと思うことはたまにある。そういう時は我ながら自分が残念だ。

しかし今回はオリジナル本に大幅に加筆してあり、版元替えの再版書とは異なる。前書はヨットで海を越えてニューギニアのなんとかいう山へ登り、またヨットで帰ってきた話だったという曖昧な記憶しかない。

では本書はどういう内容かというと、やはり前述のとおりで、公募で集まったメンバーが小さなヨットでニューギニアまで行ってジャングルを探検し、オセアニア第2の高峰トリコラ(4,750m)北壁をよじ登ってまたヨットで帰って来た話だ。

あれから十数年の時間が経過しているが、だからといってこの冒険の価値は変わらないし、たいへんな思いをして帰ってきたことは確かだ。隊長と恵子とユースケの奮闘ぶりは読んでのお楽しみ。探検中の峠恵子に歌手の要素はあまりない。冒険に乗り出した動機が「人生がひっくり返るような苦労をしてみるのだ!」ということだから、それは十分に味わったと思う。なにしろ1年以上も日本を離れて冒険の旅を続けていたのだから。

とはいえ、同じ話を繰り返しても読者はついて来ないのでここが編集の腕の見せどころなのだが、本書の構成は少し変わっている。

冒険から帰ってエピローグがあり、高野秀行氏の解説(これがイイ!)が載る。もう終わったかなと思うと次に対談が始まる。相手は角幡雄介。なんと冒険メンバーのユースケはあの探検家・ノンフィクション作家の角幡唯介だったのだ。彼の読者であればこの事実にはビックリだろう。ななめヨコも驚いた。ふたりのタメ口対談も興味深い。

しかし対談が終わってもまだ頁は残っている。「探検のその後 人生の大冒険」というその後の峠恵子を綴る章が。冒険の借金返済、ロタ島移住と帰国、そして結婚、とここは頁数はそれほどでもないが中身が濃い。

この最終章を読むと、というかここを読まないと峠恵子という人物の人となりは理解できない。30代で「人生がひっくり返るような苦労」をしたニューギニアから帰っても、彼女の冒険はまだ終わっていなかった。彼女は根っからの冒険野郎なのだ。辺境の地へ赴くことばかりが冒険ではない。この人はケツをまくって生きている。すごいなあ峠恵子。彼女の人生に予定調和という概念はないのだろう。

最初はドン引きだったこのカバーも、読み終わって改めてじっくり眺めてみると、なるほどねえと思う。本書には黒バックにばーんと存在するむき出しの峠恵子が必要だったのだ。やるな、ヤマケイ!

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