グーグル・アースが起こした奇跡『25年目の「ただいま」』

25tadaima ノンフィクション

サルー・ブライアリー25年目の「ただいま」5歳で迷子になった僕と家族の物語(静山社)が面白い。しばらく前に何気なく手に取り、寝る前に少しずつ読んでいた。以前なら間違いなく一気読みしたはずの本だけれど、近頃はそんなに慌てて読まなくてもいいんじゃない、という心境になったため、ペースもスローダウンしてます。

本書の内容はタイトルにあるとおり、5歳で迷子になった「僕」が25年後に家族と再会するというもの。ただし迷子になった場所はインド。サルーは本来インド生まれのインド人だ。その後オーストラリア人夫妻の養子となってタスマニアで幸せな日々を送るが、インドで離ればなれになってしまった家族のことを思わない日は1日もない。オーストラリア人の子どもとして学校に通い、青年に成長していきながらも、記憶からこぼれ落ちていってしまいそうになるインドでの体験を反芻して心に刻みことをやめられない。

そんな彼が2009年、グーグル・アースというツールに出会い、自分の生まれ育った家と家族探しの旅に出る・・・。

記憶をたどってPCでインドの故郷を探すといっても、インドはとにかく広大な国だし、5歳当時の子どもが覚えている地名だってあやふやだ。しかももう20年以上もたっている。本当にそんなことが可能なのか?

けれど、彼はそれに成功する。いったいどうやって?

そこがこの本のキモなのでここには書けないけれど、おすすめ本であることは確かです。

本書のオビに「グーグル・アースが起こした奇跡!」とあるが、その奇跡はいわばアクションの部分だ。サルー自身がそれをやってのけたことはもちろん奇跡だと思うけれど、彼は日々PC画面に没頭しつつ様々な思いに捕らわれる。オーストラリアで自分を育ててくれた両親と、インドで別れてしまった実母や兄たちというふたつの家族を持つ自分の存在について深く考え、思い悩む。

今取り組んでいる故郷探しが、確固たる信念を持ってインドの孤児である自分を養子として迎え育ててくれた両親を傷つけることになりはしまいか。自分が目的を遂げたら、両親はどう思うだろう。”僕がインドの親にとり返されてしまうと思ってしまうのではないか?”

『25年目の「ただいま」』は、家族とは何か、人を思いやるとは何かというテーマが全編を貫き、それがこの作品を素晴らしいものにしている。2016年に映画化され、いま日本で公開中。評判も良いらしい。

原作を先に読んでから映画を見ると原作の方がイイと思ってしまうし、映画を見てから原作を読むと映画の方がよかったと思ってしまう性分なので、映画館には多分行かないと思う。見たくないわけではないです。ただ、もう少し時間が経って本の記憶が薄れてきた頃に、ああ、そういえばこれ映画になっていたんだ、くらいの感じでこの作品に再会したい。

巡り会えて良かった一冊です。

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