『誰が音楽をタダにした?』謎解きと冒険に満ちた音楽業界ノンフィクション

ipad-605439_1920 ノンフィクション

スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ潰した男たち』(早川ノンフィクション文庫)はとにかく面白い。

本の内容は、表題のとおりCDの売上で利益を得てきた音楽業界のビジネス構造を根底から変えてしまった男たちの物語。ノンフィクションとしての面白さは一級品で、冒頭の「イントロダクション」から本書の世界に引き込まれ、最後までイッキ読みしてしまう人が多いだろう。そしてそのあと誰かに喋りたくてむずむずしてくるのだ。

しかしながらここで本の中身についてぺらぺら喋るつもりはないので、このブログをどう書くべきかしばらく考えた。が、結局いいアイディアは浮かんでこないので、今回は思い切って翻訳者あとがきをまるパクりさせていただくことにした(冗談です念のため)。翻訳は関美和。

関美和は本書のハードカバー刊行時に自らHONZにあとがきを公開しているが、文庫版とは若干内容が異なる。以下の文章は文庫版を基にしたもの。

誰が音楽をタダにした?

各界の反応

まずは、刊行直後の各界の反応の紹介を引用しよう。

いち早く評してくれたのがミュージシャンの菊地成孔さんで、「この歳に成って、ここまで、と思うほど、メディア観について根底から揺さぶられる様な本をよんじゃった」、「徹底的な取材と斬新かつ誠実な選球眼により、「音楽が無料で入手出来る」という現状を構成する100%総ての要因を網羅し、しかも極上のミステリー小説のように読ませ、先行類書としての『CDは株券ではない』『FREE』『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』『21世紀の資本論』等々を一撃で吹き飛ばした。「圧倒的な本で自分が音楽関係者じゃなくても面白い」(p349「あとがき」)

「極上のミステリー小説のように読ませ」というのがミソ。読者を引っ張っていく物語のトーンを言い表したぴったりの表現だ。

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著者スティーヴン・ウィットは海賊版の世代だ。1997年に大学に入り、最初の学期末に2ギガのハードディスクに何百曲かの海賊版の曲を詰め込んだ。その後ハードディスクは増え続け、2005年には1500ギガの音楽を集めていた。アルバムにすると約1万5000枚。今世紀に入ってからは自分の金でアルバムを買ったことはないという。

聞かない曲も多く、本人もなぜそんなことをやっていたのか明確な理由はわからない。

好奇心もあったけど、何年も経った今思い返すと、雲の上のエリートの仲間に入りたかったんだとわかる。そう意識していたわけじゃないし、もしそうだろうと言われたら、否定していたはずだ。でもそれが海賊行為のひねくれた魅力だし、誰も気づかなかった点だ。音楽を手に入れることだけが目的じゃなかった。それ自身がサブカルチャーだったんだ。(p12本文「イントロダクション」)

そんなある日、曲をブラウジングしていたスティーブンに疑問が浮かぶ。

ってか、この音楽ってみんなどこから来てるんだ?僕は答えを知らなかった。答えを探すうち、だれもそれを知らないことに気づいた。もちろん、mp3やアップルやナップスターやパイレートベイについては詳しく報道されていたけれど、その発明者についてはほとんど語られていないし、実際に海賊行為をしている人たちについてはまったくなにも明かされていなかった。(p13「イントロダクション」)

こうしてスティーブンは調査を開始し、誰も知らなかった事実を突き止めることになる。

ラップ全盛

本書の舞台となる時代、つまりスティーブンが調査を始めた頃から今日にかけて、アメリカを中心とした世界のミュージック・シーンの主流はラップやヒップホップだ。

その主流である音楽ジャンルを形成する大物アーティストたちが所属するレーベルは、何度かの買収・統合を経てユニバーサル・ミュージックに独占される。

その結果、CDの生産・販売の出口も収斂され、売れるCDの流出源も絞られていく。

しかるべきポイントに網を張っておけば獲物は上流から自然に流れて来るので、あとはインターネットを通じてファイルを流していけばタダの音楽が世界に溢れることになる。そのスキームをコントロールしていたのは・・・。

タテ糸とヨコ糸

スティーブンの調査の過程と物語の展開について、関美和の解説は簡潔でわかりやすい。

いわく、本書には3本の縦糸がある。

1.mp3の生みの親でその後の優位を築いたあるドイツ人技術者の物語。

2.鋭い嗅覚で音楽の新しいジャンルを作り、次々とヒット曲を生み出し、世界的な音楽市場を独占するようになったあるエグゼクティブの物語。

3.「シーン」と呼ばれるインターネットの海賊界を支配した音楽リークグループの中で、史上最強の流出源となった、ある工場労働者の物語。

そしてこれらの縦糸に、

1.インターネットの普及

2.海賊犯を追うFBI捜査官

3.音楽レーベルによる著作権保護訴訟

という3本の横糸が絡み合って様々な個性的人物が登場し、

謎解きと冒険を足して2で割ったような群像活劇が繰り広げられる(p351「あとがき」)

ことになる。

もうこれ以上は書けないので、あとは読むだけ。読了後は本書のことを誰かに話したくてむずむずしている自分に気づくことになると思う。

日本のラップ

ところで、日本でもミレニアル世代を中心にラップは人気の音楽ジャンルだが、邦楽史上初の日本語によるラップのヒット曲は吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」なんだとか。

そういえばあったねそういう曲。たしかにあれはラップだ。

試しにちょこっと聴いてみたら(もちろんYouTubeで)、歌詞も当時としては過激だしサビ(フックというらしい)は気持ちいいしラップの要素満載の素晴らしい曲だ。

ちなみに売上は35万枚。アナログ・レコード盤での記録です。

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