勉強は面白い!『フィンランド語は猫の言葉』は留学本の名作だ!

fin ノンフィクション

タルヤサルコヤルヴィとヴェサリンタマキ

これは著者がフィンランドへ留学し、最初に住んだ学生寮の隣人たちの名前だ。男か女かもわからないし、発音する際どこで区切るべきなのかもわからない。

タルヤ・サルコヤルヴィ(女)とヴェサ・リンタマキ(男)が正解なのだが、”フィンランド人の名前には慣れていなかったので、この超デタラメ語を暗記するのに1週間くらいかかった”とある。

稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(猫の言葉社)はそんなフィンランド語をマスターしようと奮闘する著者2年間の留学記である。

フィンランド語はたしかにむずかしそうだ。国名のフィンランドや首都のヘルシンキもわりと普通っぽい発音なので、スウェーデンやノルウェーと同じ北欧諸国のグループだし、似たような言葉を話していると思っていたのだが、本書を読むとひえ〜と驚くことが沢山書いてある。映画『かもめ食堂』に出てくる街の人々はフィンランド語を話しているはずだけれど、そんなめっちゃむずかしい言葉には聞こえない。

フィンランド語というのは、言語分類でいうとヨーロッパの大半の国で使用されているインド・ヨーロッパ語族には属さない、ウラル語族という少数派の言語だ。

細かい話をするような知識はないのでうんとおおざっぱにいうと、英語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語、ドイツ語、ロシア語などはそれぞれかなり違う印象はあるけれど「インド・ヨーロッパ語族」という大きなくくりに収まる言語だ。

一方フィンランド語はというと、フィンランド国内だけでしか使われないマイナー言語で、同じウラル語族のエストニア語にしても使われる国は限られている。このへんの事をビジュアル化した「言語の世界がわかるインフォグラフィック」というのわかりやすくて面白い。

言語学の話はさておき、留学体験である。

この本は古書店で見つけた単行本で2008年刊だが、初版は文化出版局から1981年に出ている。その後1995年に講談社文庫になって、この猫の言葉社で再刊された。だから留学体験そのものは30年以上も前の話ということになる。

けれど、不思議と古い感じはしないし違和感がない。フィンランドの人々が今もこの本に描かれているとおりの生活をしているかどうかはわからないが、著者が、この国に暮らす人々の人柄や街の空気感を根っこの部分できっちりと的確に捉えているからなのだろう。

語学留学をして通常の会話や読み書きができるようになったら、普通はそれで満足するはずだと思うが彼女は違う。一般のフィンランド人大学生と同じ条件でフィンランド語学科に進み、構文論や文学史、方言、古文、はたまた外国語をフィンランド語に翻訳する授業などをこなしていく。そのあたりの悪戦苦闘の部分をじっくり読むのがこの本の醍醐味なのだが、それにしても彼女のフィンランド語への好奇心とのめり込み方はすごい。勉強ってこういうことをいうんだよなあ。

猫の言葉社(https://nekono-kotoba.com/)は著者の稲垣さんが本の出版を通じてフィンランドの文学や芸術を紹介するために設立した会社だ。版元として記念すべき第1冊目が本書とのこと。フィンランド語がなぜ猫の言葉なのかも本書の中に書いてある。

人気の北欧諸国の中でも、俄然、”森と湖の国”フィンランドに興味がわいてくる一冊だ!

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