『カミーノ!』を読み、さらに映画『サンジャックへの道』と『星の旅人たち』を見る

camino 旅の本
旅の本

森知子『カミーノ!女ひとりスペイン巡礼、900キロ徒歩の旅』(幻冬舎文庫)は、私のすきな「歩きモノ」だ。サイトに連載されていたものを書籍にまとめた日記風エッセイで、かなりぶっちゃけた饒舌なスタイルで書かれている。外出用のカバンに入れておいたらいつの間にか読み終わっていた。

本書タイトルの「カミーノ!」とはカミーノ・デ・サンティアゴといって、スペイン北西部にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラという大聖堂を目指して歩く巡礼のことだ。サンティアゴ・デ・コンポステーラは、バチカン、エルサレムと並ぶキリスト教の三大巡礼地で、ヨーロッパ各地からルートが延びている。

フランスからピレネー山脈を超えてスペイン北部を歩く800キロほどのルートは「フランスの道」と呼ばれて巡礼の歴史は1000年以上。今も年間20万人のペリグリーノ(巡礼者)が世界中から訪れる人気の観光地でもある。

そんな歴史ある巡礼の旅だが、歩くのは信仰心の篤いクリスチャンばかりではなく、トレッキング好きや、いわゆる”人生に疲れた人”たちが自分探しにやって来たりすることも多い。

著者の場合は、

突然ですが、夫に捨てられ旅に出ます!

とのこと。イギリス人の夫から、ある日「リコンをクダサーイ」と言われたことがきっかけだ。

そんなわけで巡礼の旅は始まる。時は6月下旬。出発地点はフランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポー。巡礼はアルベルゲと呼ばれる宿に宿泊しながらひたすら一本道を歩く旅だ。ひとりでもいいしグループでもいい。歩くペースは人それぞれだから「じゃあ、またね」、「あれっ、こんなところにいたの?」という具合に出会ったり別れたりしながらの旅となる。

『カミーノ!』に書かれているのは、日々出会う人々との会話と、おいしかったりそうでなかったりするゴハンと、イギリス人の夫との離婚の話だ。特別な事件は起こらない。けれど、彼女と一緒の気持になって炎天下を歩いたり、ビールやワインを飲んだり、虫に刺されてかゆい思いをしたりしていると、このままずっと歩き続けていられたらいいなあという心境になってくる。

彼女だって、

うーむ、このまま一生”ペリグリーノ”として、外の世界から遮断されたカミーノに守られて生きていけないものだろうか

と言っている。2度、3度と巡礼する人がいるそうだが、その気持は分かる気がする。

ところで、本書は文庫本。旅の雰囲気を伝える写真も載っているがモノクロだ。読んでいるうちにもっと沢山カミーノの風景が見たくなってくる。写真もいいが、できれば朝も昼も夜も含めた時間の動きが感じられるもの。そしてもっといえば、晴れも曇りも雨もひっくるめた風景を丸ごと見たい。どうしたらいいものか?、と探してみたら映画があった。しかも2作も。ずばり、サンティアゴ・デ・コンポステーラを舞台にした作品で現地ロケだ。

美しい風景をじっくり味わいつつストーリーも楽しむ。映画を見る動機として若干の邪道っぽさはあるが、見たいものは見たい。なので両方とも期待して見てみた。

公開日時が古い方からまずひとつ目は『サン・ジャックへの道』:監督コリーヌ・セロー(2005年)。

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ストーリーは、不仲の3人兄妹が、母親の遺産を相続するにあたって、サン・ジャック(サンティアゴのこと)まで3人揃って一緒に歩き通すという条件を科され、ツアーで行動を共にすることになった仲間達とペリグリーノとなって1500キロの巡礼の旅をするというもの。

3兄妹のピエールとクララとクロードの仲は険悪だ。相続のためにやむを得ず歩き始めるが、普段は運動をする習慣もないので辛くてたまらない。しかし歩き続けるうちに体調や心境に変化が訪れて・・・という展開になる。そこに同行者のツアーガイドや、アラブ人の少年男子2人組とその同級生の女子2人、さらに病み上がりらしき中年女性などとのエピソードも交えつつゴールに到達する。

この作品で描かれる自然の風景は美しい。とくにピレネー山脈の周辺が印象的だ。なるほどこれが『カミーノ!』の舞台かと思いつつ鑑賞したが、途中からは映画のストーリーに引き込まれた。

季節は『カミーノ!』とだいたい同じ頃だと思う。私の希望どおり、雨の日のシーンもあったし、丘の斜面に沢山いるヒツジたちもかわいい。

そして次は『星の旅人たち』:監督エミリオ・エステベス(2010年)。

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(C)The Way Productions LLC 2010

こちらは、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの旅の途中に事故で亡くなってしまった息子ダニエルを弔うために、遺品の装備を背負って代わりにペリグリーノとなる父親トムの物語だ。

「いろいろな国へ行って、世界を見なくちゃならない」と言って学業の世界を辞して旅に出たダニエルの心を理解しようと父親のトムは歩きはじめる。距離は800キロ。スタートはひとりだったが、そこはなんといってもやはりカミーノ。お約束のように出会いがあり、旅の日を重ねるにつれて・・・という展開だ。

『星の旅人たち』で描かれる風景は『サンジャックへの旅』とは季節が異なり、こちらは秋。少し抑え気味のトーンで自然の風景が描かれている。通過する街やアルベルゲの様子も『サンジャックへの道』とは見せ方が違うのでいろいろ興味深い。この作品も『カミーノ!』を意識して鑑賞したが、やはり途中から作品世界に引き込まれた。この作品は音楽のセレクトも良くて、アラニス・モリセットの「Thank U」が流れてきた時には、改めて字幕の歌詞をじっくり読んでしまった。

今は、本書+映画2本で「カミーノ・デ・サンティアゴ」の世界をたっぷり味わうことができてとても贅沢な気分だ。

ちなみに、映画を見て初めて知ったのだが、丘の斜面にいるヒツジたちは夜もずっとそこにいるということ。夕方になったらどこかの小屋へ帰るのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

きっと雨の日もそこにいるのだろう。ヒツジたちもいろいろ大変だ。

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