『理系の子ー高校生科学オリンピックの青春』に見る高校生たちのクール

ノンフィクション
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理系って?

ぷるるるーんとケイタイが鳴る。

アメリカ、ウエスト・ヴァージニア州パーカーズバーグに住むケリードラ・ウェルカーに電話をかけてきたのは、彼女と同じく理科オタクのボーイフレンドだ。

ぼくはきみの微分係数になりたいな。そうすれば、きみの描く曲線に接線を引くことができるからね。

わたしは、あなたのヘリカーゼがいい。あなたの遺伝子をほどいてしまうことができるものね。

もちろんふざけているのだが、それにしても「ん?」である。今どきのアメリカの理系の高校生たちはこんな会話でイチャイチャするのだろうか。

「微分係数になりたい」だと?

まったくイミがわからない。高校の時に数Ⅱの行列あたりで挫折した身としては、仲間はずれにされている気がする。化学は2回追試を受けたし、物理に至ってはかすってもいない。

「きみの描く曲線」というのはなんとなくわかる気がする。彼女の曲線といえば、なだらかな曲線のことだし、接線と言ったらぴったりくっついた線のことで、男子にとってこの辺は理系も文系もカンケイないかもしれない。

しかしそれを受けたケリードラのセリフ「あなたのヘリカーゼがいい」とは何事か?

Wikiによると、ヘリカーゼとは”核酸のリン酸エステル骨格に沿って動きながら絡み合う核酸をほどく酵素の総称である”とある。キミたち、いくら理系とはいえ少々やりすぎではないの?と言いたくなるのは私だけではないだろう。微笑ましいことは確かだが。

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ジュディ・ダットン『理系の子ー高校生科学オリンピックの青春』(文春文庫)はそんな「理系」の高校生たちの物語だ。本書は原本2011年発行、2012年にハードカバーで翻訳されたものの文庫化だから、有名なベストセラー作品。ちなみに今このブログを書いている時点でAmazonのレビューが36もついている。今さらの感はあるが、良いモノは良い。

なので、早速本題に入る。

まず、本書は「理系の子」というタイトルであるけれど、「理系」は登場する高校生たちが青春をかけて打ち込んでいるモノのかなり大雑把な分類で、理系であることプラス「一生懸命」な子たちの物語だ。とにかく好奇心が旺盛で頭も良く、物事に集中する力が並外れた高校生たちの感動の物語である。

高校生たちがチャレンジするのは「インテル国際学生科学技術フェア」というサイエンス・フェアで、通称ISEF。

ISEFは、サイエンス・フェアにおけるスーパーボウルだ。毎年、五十カ国をくだらない国々から千五百人以上の高校生が集まり、四百万ドルをゆうに超える賞金と奨学金をめぐって戦いが繰り広げられる。いわば高校生による科学オリンピックである。(本文p15)

スポーツで飛び抜けた才能を発揮する高校生が、大学やプロのチームから注目されるのと同様に、ISEFで優れた成績を残して「戦いに勝利」すればその後も大好きな研究が続けられる。社会に出てからもその研究が続けるかどうかはわからないにしても、なにせまだ高校生なのだ。そんなことはもっとあとでゆっくり考えたらいい。

では、いったい彼らはどんな研究をしているのだろうか?

ISEFには22ものカテゴリがあるが、本書に登場する高校生たちの研究テーマはジャンルも幅広く内容もユニークだ。

たとえば、核融合、太陽エネルギー、動物セラピー、水質汚染、聴覚支援システム、カーボンナノテクノロジーなど・・・。

本書の第一章で取り上げられており、現在超若手の核物理学者として研究を続けているテイラー・ウィルソンについて少し詳しく見てみよう。

章のタイトルは「核にとり憑かれた少年」

まず、テイラーは10歳で爆弾を製造した。父親の切株破砕剤に砂糖を混ぜたものを小さなプラスチックの容器に入れて導火線を垂らし、マッチで点火した。

数秒後、ものすごい音響とともに小さなキノコ雲がウィルスン家の裏庭からたちのぼった。両親と近所の人がぶったまげたのはいうまでもない。

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元素周期表

その後テイラー少年は元素の周期表に関心を覚える。水素、ヘリウム、リチウムと原子番号の順に並んでいるやつだ。中でも表の下の方に並んだ元素が興味深かった。ウラン、プルトニウムといった放射性元素だ。

放射線はさまざまな形で人間の役に立っている。癌の治療、骨折のときのレントゲン撮影。放射線にも善悪ふたつの顔があるのだ。数百万人の命を救うこともできるし、ボタンひとつ押すだけで同じ数の人たちの命を奪うこともできる。(本文p30)

テイラーは身のまわりに存在する放射線の性質を知り、すっかり魅了されてしまう。

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ガイガーカウンター。テイラーが手に入れたものはこんな感じだったのかもしれない(C) Boffy b

「ねえ、父さん、ガイガーカウンターが手に入らないかな」

テイラーは父に強引に頼んでガイガーカウンターを手に入れると放射性物質のコレクションをはじめる。フィエスタ焼きの陶器や煙探知機、キャンプ用の手提げランプなど(いずれも微量のウラン、アメリシウム、トリウムという放射性元素が含まれている)。

およそ2年の間にテイラーのコレクションは増えていったが、少年が本当にやりたかったことは、ファーンズワース・フューザーを作る、つまり慣性静電気閉じ込め式核融合炉を作ることだった。

そして2年後、14歳でテイラーは核融合実験に成功する

何事にも臆することのないテイラーは、或るWebサイトにアクセスした。

1990年代、”融合族(フュージョニアーズ)”と呼ばれる原子力愛好家たちは、ガレージや地下室で核融合炉を作りはじめた。Fusor.netというインターネットのサイトで、彼らは部品の交換や助言を行っており、それはまるでヴィンテージ・カーのマニアが、整備に関する情報やエンジンの部品を交換するようなものだ。(本文p34)

融合族には序列があり、一番上は”中性子クラブ”と呼ばれる。当然、テイラーは”中性子クラブ”のメンバー入りを目指した。しかし最初は一番下の階層からのスタートだ。12歳だったテイラーは最初メンバーに警戒されたが(フューザー・ネットは年齢にかかわらず新参者には用心深い)、少年の原子物理学への理解の深さを知った数名のメンバーが手を差しのべ、2年後にファーンズワース・フューザーを完成させた。

少年の才能に真摯に向き合って指導してきたオトナたちも素晴らしかった(これは本書全てのストーリーに共通)が、もちろんいちばん素晴らしかったのはテイラーだ。フューザー完成までの道のりはこの章のハイライト。

実験に成功した数週間後、テイラーは地元のサイエンスフェアへフューザーを運び込んで「2.5メガエレクトロンボルト中性子流量における臨界値以下の中性子増倍」というタイトルで発表を行い、優勝者としてISEF出展の権利を得た(ISEFの参加資格は「中学3年生〜高校3年生およびそれと同等とされる学年」とされている)。

テイラーは科学のスーパーボウルで思う存分自分の考えを発表するチャンスを得たのだ!

現在テイラー・ウィルスンは、高圧下でなくとも稼働可能でメルト・ダウンも起こらない小型モジュール式原子炉を考案した核物理学者となっている。

 

テイラー・ウィルソンの個人サイトTAYLOR’S NUKE SITEはこちら

日本の高校生も参加している!

本書には「有孔虫による堆積古環境の推定」という研究で2011年のISEFに出場し、地球科学部門第3位、米国地質研究賞第1位を獲得した田中里桜さんによる特別寄稿があり、日本の高校生も世界レベルで頑張っていることがよくわかる。(今年のISEF:2017では日本の高校生3名が3つの部門賞を受賞した!)

ISEFの授賞式はちょっとしたお祭り騒ぎだ。ジュディ・ダットンはアカデミー賞なみといっているが、まさしくそれは科学のスーパーボウル。表彰台に上がった高校生たちが喜ぶ姿はみているわれわれにも感動を与えてくれる。

Science is cool !

そう、科学はかなりカッコいいのだ。

 

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