自転車が好き、アウトドアが好き、旅が好き。
この3つの要素を持った人は多いと思うけれど、自転車を楽しむのは、ガチで競技としてやる場合を除けば、週末のワンデイ・ライドか夏休みなどを利用してちょっと長めの輪行を 楽しんだりするのが普通だ。そこからちょっとはみ出して、日本一周や海外へ足を伸ばすというのも大いにアリだと思う。
宇都宮一成もそんな自転車好きのひとりだった。バイト代をコツコツ貯めて日本各地を走りまわり、サイクル&アウトドアを楽しんでいた。

ふたりが使用したものはツーリング仕様でもっとゴツいが、タンデム自転車はこんな感じ
そんな彼が大学を卒業し、初めての海外サイクリングでニュージーランドへ出かけた時のことだ。アメリカ人夫婦のサイクリストと出会った。夫婦が乗っていた自転車はタンデム。ハンドルとサドルとペダルが前後に二つ付いたふたり乗り自転車だ。聞けば彼らは世界一周中で、旅立ってすでに3年経つという。その後、ニュージーランドで夫婦と何度か再会し、話を聞くうちに宇都宮一成はタンデム自転車の魅力に取り憑かれてしまう。
もしいっしょに旅するパートナーがいるとしたら……。この先、何十年もそばにいられる相手と自転車の旅に出られたら……。三十年、四十年たって、アルバムを広げたときに昔の自分たちの姿があって、思いっきり懐かしめる思い出の数々がそこにあれば、それだけで旅する価値は十分あるんじゃないか?
僕は、自分のこのひらめきに夢中になった。(本文p9)
「もしいるとしたら」という架空のパートナーとは、その後結婚することになる”トモ子さん”のことだ。
20代の男子は、まだ世間をよく知らないこともあってこういう夢想的な気分になりがちだ。けれど、ふつうは女子の方が冷静で、「え”え”~!私も一緒ってマジ?」ということになって、ストップがかかったりする。
しかし、その男子にそこそこの実行力があったりすると、女子が巻き込まれてしまうという事もまたよくある話だ。なので、男子の思いは深まる。
着々と準備が進むなかでトモ子さんは決心した。
今さら「私は行かない」とは言い出せない。さっと行って、さっと帰ろう。(本文p13)
というわけでタンデム自転車での世界一周の旅が始まった。そしてその旅はなんと10年間続いたのだ。
『88ヶ国ふたり乗り自転車旅-北米・オセアニア・南米・アフリカ・欧州編』、『88ヶ国ふたり乗り自転車旅-中近東・アフリカ・アジア・ふたたび南米編』宇都宮一成・宇都宮トモ子(幻冬舎文庫)はそんなふたりの長~い旅の日記だ。
記述はふたりが交互に自分の視点から道中を語る形で進行する。お互い気分が良いときもそうでないときも、移動中は常にぴったりくっついて走るタンデム車だ。思いがひとつになるときもあればベクトルが正反対になることもある。都会も田舎も高原も砂漠も、雨天炎天、ホテルにキャンプに野宿に誰かの家泊まりと、何でもアリのふたりの旅を私たちは一緒に楽しめる。
ところで、自転車で世界88ヶ国を巡ると、どんな道を走ることになるのだろうか?
本書には、世界を旅するサイクリストなら是非とも走るべきトレイルとか、必ず越えるべき大きな峠などの著名な場所を除けばルートがはっきり書かれているわけではない。そこで、ふたりが辿ったかもしれないルートを、本書の目次を参照しながらGoogleマップで追いかけてみようと思う。
ちなみに、Googleマップを目一杯貼り付けるとページが重くなるので、飛び飛びに駆け足で行きます。
ではさっそくスタート。まずは北米・アラスカから。
北米・オセアニア・南米・アフリカ・欧州編
1部 北米編
アメリカ(アラスカ 22days 800km
旅のスタートは北米アラスカ州のアンカレッジ。ポーテージ湖を経て列車とフェリーでバルディーズへ渡り、カナダへと向かう。
カナダ 58days 2,174km
カナダといえばジャスパー国立公園。カナディアンロッキーの美しい山並みをとことん味わえるアルバータ州道93号線・アイスフィールド・パークウェイをふたりは選んだ。
アメリカⅡ 91days 4,005km
再びアメリカへ入り、少しずつ南下していく。約2ヶ月かかってグランドキャニオンまでやって来た。キャメロンの町から標高差1000m、距離50kmの上り坂を上がる。
メキシコ 69days 1,698km
メキシコへの入国は混雑を避けるためマイナーな国境を選んだ。最初に訪れたのは小さな田舎町パロマス。メキシコには69日間滞在し、1,698km走行した。
2部 オセアニア編
オーストラリア 177days 7,758km
メキシコから日本に3ヶ月間一時帰国し、オーストラリアへ。ブリスベンからタウンズビルまで北上し、内陸部を西へと向かう。赤茶けた道が水平線の向こうまで続いている。
フィジー 16days 235km
オーストラリアを縦断したあと南太平洋の島・フィジーへと渡り、国際空港のあるナディから首都スバまでの南岸を走った。
ニュージーランド 161days 4,402km
フィジーからニュージーランドへ。ここはタンデム自転車で世界一周中のアメリカ人夫妻に出会った思い出の地だ。北島のオークランドから南島を目指して走り、フェリーで南島に渡るとブレナムからハンマー・スプリングスまで、ニージーランド屈指のサイクリングコースであるモールズワース・ロードを走破。175kmのダートロードだ。
3部 アジア編
韓国 22days 564km
ニュージーランドから韓国のソウルへと飛ぶ。500kmの旅で港の町釜山へ。船で九州へ渡り、2度目の帰国をした。
4部 南米編
ボリビア 26days 630km
ボリビアへはラ・パスのエル・アルト国際空港から入る。標高4,000mを越える高所にある世界最高所の空港がスタート地となった。
チリ 29days 1,111km
ボリビアのラパスを発ち、アンデス高原を越えてチリの港町アリカへ標高4,700mから一気に下る。アリカからトコピアまで海岸線を走って一路アンデス山脈を目指す。サン・ペドロ・デ・アタカマの町を抜けたらとにかく登る!
アルゼンチン 25days 722km
チリとアルゼンチンの国境シコ峠を越え、カトゥアの村を抜けて標高4,560mのアンデス山脈頂点を乗り越えてサン・アントニオ・デ・ロス・コプレスの町へ下りてきた。
チリⅡ&Ⅲ 69days 2,065km
アルゼンチンから再びチリへ。サンティアゴからプエルトモント、チロエ島を経て本土に戻り、「世界一美しい林道」といわれるアウストラル街道をたどるべくチャイテンへ。街道の終点コジャイケまでは450km。
アルゼンチンⅡ 23days 845km
アウストラル街道南端の町コクランから東へ向かい、アルゼンチンのルータ・クワレンタ(40号線)に出る。ここからの350kmが”パタゴニア越え”といわれる難所だ。道は平坦でもおそろしいほどの強風地帯が続く。
チリⅣ 24days 735km
チリ南端の港町プンタ・アレナスからフエゴ島の世界最南端の町ウシュアイアへ。ここから南極まではたった1,000kmしか離れていない。
5部 欧州編
南米大陸アルゼンチンのウシュアイアからブエノスアイレスを経て、ヨーロッパへ。南半球から一気に北半球へと大移動。
オランダ 24days 587km
オランダの出発点はアムステルダム。国中に設置されているサイクルパス(自転車専用道)を大いに活用する。
ベルギー 5days 115km
ベルギーといえばビールにお菓子!なのにゆっくりできずたったの五日間で通り過ぎてしまい、ちょっと残念。
ルクセンブルク 2days 80km
ルクセンブルクも駆け足で通り過ぎる。スーパーで買い物をした。
ドイツ 43days 1,593km
ドイツもオランダとならんで自転車大国でサイクルパスが利用できる。ヴュルツブルクからローテンブルク、ネルトリンゲン、アウグスブルクとロマンチック街道を南へと辿った。
オーストリア 13days 389km
ドイツのミュンヘンからオーストリアへ。ザルツブルクでは詳しいガイドブックを持っていなかったので思ったように観光が出来なかったが、街並の風景をしっかりと目に焼き付けた。
スロベニア 3days 141km
クランスカ・ゴーラの町からトリグラフ国立公園へと坂を登る。登りは24本、下りは26本のヘアピンカーブだ。
イタリア 19days 617km
イタリアでは自動車も自転車もない街ベネチアの観光へ。海沿いを離れて内陸部へ入るとトウモロコシやサトウキビの畑が広がっていた。
サンマリノ 1day 12km
サンマリノはヨーロッパではバチカンとモナコに次いで面積の小さな国。美しい切手を発行している。
リヒテンシュタイン 1day 28km
首都ファドゥーツはとてもコンパクトな街。
スイス 20days 576km
アルプス越えは険しい地形の連続だ。その分美しい山岳風景が広がっている。アイガー北壁もマッターホルンも素晴らしかった!
フランス 29days 1,042km
アヴィニョン郊外のポン・デュ・ガールに近いコリアス村でタンデム愛好家に遭遇。ダンデムで長距離サイクリングをする場合、キャリアにバッグを装着する以外にトレーラーを引いていく方法のメリットを教えられて大いに参考になった。
アンドラ 2days 62km
首都アンドラ・ラ・ベリャは谷間にある坂の町。
スペイン 32days 1,236km
スペインの内陸部は大陸的な風景が広がっていた。
ポルトガル 27days 911km
雨の中をユーラシア大陸最西端のロカ岬に到着。またひとつ端っこを極めた。
6部 アフリカ編
モロッコ 58days 2,294km
ジブラルタル海峡をフェリーで渡るとそこはアフリカ大陸。モロッコの客引きは手強かった。
モーリタニア 4days 0km
旅行当時モーリタニア国内は自転車で安全に旅行ができない状態で、走行距離はゼロ。
セネガル 15days 445km
首都ダカールは過ごしやすい町だ。
ガンビア 7days 224km
ついに積算走行距離が4万キロを超えた。赤道一周分に当たる距離だ。国で一番のメインルートにはサルやイボイノシシも姿をみせる。
7部 欧州編 パートⅡ
オランダⅡ 22days 488km
暑いアフリカからみぞれの降るアムステルダムへ帰る。荷物バッグをトレーラーで引く方法に切り替えてみた。
ドイツⅡ 13days 654km
後輪のリムにトラブル発生。ここがアフリカでなくてよかった。
デンマーク 6days 284km
寒くて天候もイマイチだったが、これがデンマークの春だ。
スウェーデン 8days 264km
森の中で雪に見舞われたが、スウェーデンの人の心は暖かかった。
ポーランド 9days 467km
ポーランドの田舎道はのんびり走るのに最適。時間がゆっくりと流れていく。
リトアニア 9days 412km
リトアニアではちょっとした事件が発生。
ラトビア 5days 308km
ラトビアには牧歌的な風景も工業都市もある。
ロシア 6days 320km
ロシアのスーパーマーケットは全く愛想がない。
エストニア 7days 287km
ロシアからエストニアに入ると街の雰囲気が一変。明るくて北欧的なテイストの国だ。
フィンランド 38days 1,488km
旅を始めて5年が過ぎた。フィンランドは湖と森の国。ラップランド州に入ると深い森が続く。
ノルウェー 64days 2,364km
アップダウンの多いフィヨルドの入江をクネクネと行き、ヨーロッパ北端のノールカップ岬に立った。
イギリス 13days 578km
ピーターラビットで有名な湖水地方から入り、秋を迎える田舎道を農家や羊たちを見ながらゆっくりと走る。
アイルランド 2days 124km
アイルランドもイギリスと同じ左側通行。
ドイツⅢ 36days 542km
日本から両親がやって来て合流。自転車をレンタルして約2週間、ドイツを旅した。荷物バッグをトレーラーからサイドバッグのスタイルに戻した。
8部 欧州編 パートⅢ
チェコ 17days 675km
プラハのキャンプ場では霜が降り、テントのポールが凍って畳めない。晩秋のチェコは美しいが空気が冷たい。
スロバキア 6days 274km
首都ブラチスラバの旧市街は落ち着いた趣のある居心地の良い街。
ハンガリー 18days 303km
ブダペストには2週間滞在した。冬場のサイクリングは厳しいが冬でなければ見られない景色もある。
クロアチア 3days 121km
本格的な真冬に突入。気温はマイナス15度くらいまで下がる。テントが凍るのでパッキングに時間がかかる。
ユーゴスラビア 11days 406km
今はもう無くなってしまったユーゴスラビアという国名。厳冬期に訪れたが、人々の気持ちが温かかった。
ルーマニア 2days 125km
テント場を探しあぐねていると農家の年配のご夫婦が家に泊まらせてくれた。ふたりの質素で素朴な生活に豊かさとは何かと思う。
ブルガリア 10days 438km
大晦日の日、雪の中を走りながら短波ラジオで紅白歌合戦を聴いた。トラックドライバーが集まるレストランのスープで温まる。
ギリシャ 8days 365km
ギリシャに入ると雪が消え、地中海性気候を実感する。
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