竹沢うるま『Remastering』失って初めて知る私たちの日常

日々のこと
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2020年12月5日、東京の気温は8度。止みそうでなかなかやまない雨の中、竹沢うるまの写真展「Remastering」最終日へ行ってきた。写真集『Remastering』も先日刊行されている。

『Remastering』は世界の「日常」をテーマにした写真集出版プロジェクト。海外での撮影を主とする写真家がいま思うことをクラウドファンディングを利用して短期間で仕上げた作品だ。作品の制作には明確な意図がある。


竹沢うるまは2019年12月から、半移住生活をしているラロトンガ島での生活を「クック諸島滞在記」というタイトルでnoteに綴っている。

「いま南太平洋に浮かぶ小さな島で、波の音を聞きながらこの文章を書いている。」

ゆっくりしたテンポで時間が流れる南の島での日常が書かれているが、年が明けた春からタイトルに(番外編)というカッコ書きが付いてトーンが変わった。

「いまさら改めて書くまでもないけれど、コロナの影響で行き先を失っている。」

いまさら言うまでもないが、とnoteと同じ文章になってしまうけれど、2020の私たちの生活は新型コロナウイルスの影響によって大きく変わってしまった。何が変わってしまったのかはそれこそホントに言うまでもない。国境の扉が閉され、日本ではロックダウンは行われなかったものの、感染防止のため自粛するしかない日々が続いた。外出はままならず、海外へ旅に出るなんてとんでもない。

『Remastering』は、鎌倉の自宅で自粛生活を余儀なくされた竹沢うるまが、過去に撮影した写真に見いだした「日常」を再構築した作品だ。

日常とはそこに存在しながらも目に見えず、失って初めて知ることのできるもの。それは曖昧模糊としていて、夢のようなものだと気付いたのです。『Remastering』あとがき

会場に展示された作品は淡いトーンにプリントされて夢のような印象がある。けれどそれは幻ではなく、たしかにそこに存在した日常のひとコマだ。 不自然な自粛を求められることなくもっと普通に、ある意味無、意識に振る舞ってよかった私たちの日常は、このまま遠く離れていってしまうのだろうか。

写真集は360頁もあって分厚くずっしり重い。購入したら竹沢さんがその場で見返しにサインをしてくれた。目が合ったので話しかけてみる。写真展の印象。そして『The Songlines』『Waikabout』について。

「今度、本も出します。ソングラインの終わりのところから始まる話です」

私が写真家竹沢うるまの存在を知ったのは、じつは旅行記の『The Songlines』がきっかけだ。

「本を書くのはたいへんで、2~3年かかっちゃいますから」とすこし嬉しそうだった。

今度出す本が『ルンタ』だと気づいたのは、帰りの電車の中でのことだ。とすると、舞台はチベットか。写真集『Kor La』は持っていないけれど。

「自分をアウトプットするということで言えば、僕にとっては写真だけじゃないし、」と本人がさっき言っていた。

「2~3年かかっちゃう」というのは「かかっちゃった」ということ?もっとはやく仕上げたかったんだけど、という意味なのだろう。『Kor La』と『ルンタ』の関係は、『Waikabout』と『The Songlines』と同じ。

フォトグラフとテキスト。

ギャラリーを後にぶらぶらと恵比寿駅の方へ歩いて行く。雨は来た時と同じように止みそうでやまない。写真展の余韻がまだつよくて、ポルトガルの海岸でのんびりする人々やタジキスタン・パミール高原の風景が頭の中に広がっている。

「世界は何だかんだ言って、広かった。」というコトバがふと浮かぶ。ソングラインに書かれていた言葉だ。

次の写真展のタイトルは「Boundary」。

「つぎはもっと動きがある写真でやります」とも言っていたっけ。

笑顔に満ちたささやかな日常がある一方で、動きに満ちたもっとざわざわとした日常もある。この世界は多様性に満ちている。

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